結論と今後の展望

市場の構造的変化

銀市場は、供給・需要の両面で構造的な転換期を迎えている。以下の要因が市場の長期的な方向性を決定づける。

供給制約の継続

  • 新規発見の困難化: 新たな大規模鉱床の発見が難しくなっている

  • 既存鉱山の品位低下: 生産中の鉱山における銀含有量の継続的な減少

  • 鉱山生産の減少: 2016年以降、銀鉱山の生産量は7%減少

  • 供給の硬直性: 銀の大部分が卑金属採掘の副産物であるため、需要急増に対して供給が柔軟に対応できない

需要の構造的成長

  • グリーンエコノミー: エネルギー転換に不可欠な素材としての地位確立

  • デジタル化: AI・データセンター・エレクトロニクスにおける継続的な需要増加

  • 産業用途の拡大: 高効率N型太陽電池など、新技術による銀使用量の増加

投資需要の多様化

  • 戦略的購入の増加: ロシア等の国家による銀備蓄は市場の転換点となる可能性

  • ETF流入の爆発的増加: 2025年は年央時点で2024年通年を上回る流入

  • 銀裏付けETF資産: 2025年半ばに400億ドルに到達

価格上昇圧力の持続

  • 累積供給不足: 2021年以降の累積供給不足は8億オンスを超過 [1]

  • 需給逼迫の継続: 2025年以降も構造的な供給不足が継続する見込み

最新動向(2025年)

現在の市場状況

2025年10月25日時点で、銀価格は48.58ドルで取引されており、2025年最初の9ヶ月間で50%以上の急騰を記録し、14年ぶりの高値である44ドル超に到達した。

2025年の需給バランス

項目

数値

前年比

世界需給

12.0億オンス

ほぼ横ばい

供給不足

149 Moz

-19%(依然として歴史的高水準)

工業需要

7億オンス超

+3%(史上初)

太陽光発電需要

過去最高水準

増加継続

主要機関の2025年価格予測

最新の予測は全体的に強気な見通しを示している:

機関名

予測価格

備考

ING Think

$31/oz

2025-2026年平均

Scotiabank

$31.86/oz

2025年平均

JPMorgan

$38/oz

2025年後半

Reuters調査

$33.10/oz

2025年平均(2025年4月調査)

GoldSilver

$40/oz

年間25%上昇予測

複数予測の中心値

$48-50/oz

年末予測レンジ $45-55

: 現在の市場価格($48.58)は、多くの機関予測を既に上回っている。

2025年の主要ドライバー

  1. 供給不足の継続: 5年連続で供給不足が継続、2025年の不足は149 Mozと予測 [2]

  2. 工業需要の安定成長: 産業向け需要が3%増加し、史上初めて7億オンスを超える見込み [3] [4]

  3. グリーンテクノロジー: 太陽光発電の設置が再び過去最高を達成する見込み

  4. 投資需要の回復: 西側市場でのETF流入が2024年を大きく上回る

短期見通し(2025年)

需給見通し

セグメント

見通し

詳細

工業需要

ほぼ横ばい

PV需要増加の鈍化を他セクターの成長が補完

投資需要

若干回復

西側市場でのETF流入が加速

供給

1.5%増加

鉱山生産増加も需要増加に追いつかず

需給ギャップ

117.6 Moz

縮小するが依然として大幅な赤字

価格見通し

  • 基調: 高止まり継続の公算

  • 価格レンジ: $30-55(下限は既に突破、上限も視野)

  • 年末予想: $48-50を中心として$45-55のレンジ

  • リスク要因: 地政学リスク、米ドル動向、金価格との連動性

中期見通し(2026-2030年)

需要セクター別展望

AI・データセンター需要

  • トレンド: 継続的な成長

  • 用途: サーバー、高性能コンピューティング、5G/6Gインフラ

太陽光発電需要

  • 2030年予測: 年間4億オンス超(2025年の約2倍)

  • ドライバー: 高効率N型セルの普及による単位使用量増加

  • 元予測との整合性: 年間10,000-14,000トン(約320-450百万オンス)の範囲内

電気自動車需要

  • トレンド: 着実な増加

  • 用途: バッテリー、電子制御システム、充電インフラ

供給の見通し

  • 増加: 限定的(鉱山開発のリードタイムの長さ)

  • リスク: メキシコでの鉱山閉鎖リスク

  • 制約: 副産物としての性質上、需要に応じた柔軟な増産が困難

価格見通し

複数の予測機関による2026-2030年の価格予測:

保守的予測

中心予測

強気予測

2026

$34-35

$50-55

$78-79

2027

$35-40

$60-70

$77-88

2028

$40-45

$70-80

$100+

2029

$45-50

$80-90

$110+

2030

$57-60

$75-90

$125+

主要機関の見解:

  • CME Futures/Citigroup等: 2025年の$40から2030年には$57超へ、5年間で40%以上の上昇 [5]

  • InvestingHaven: 2027年に$77、2030年に$82に到達する可能性

  • 一部アナリスト: $50超の可能性、強気シナリオでは$100予測も

中期的なリスクと機会

上昇要因:

  • 再生可能エネルギー移行の加速

  • 持続的な供給不足

  • 工業用金属と投資資産の二重の役割

下落リスク:

  • 代替技術の開発

  • 世界経済の減速

  • 工業需要の想定外の鈍化

長期見通し(2030年以降)

2040-2050年の展望

資源枯渇リスク

  • 埋蔵量の懸念: 一部予測では2040-2050年頃に銀埋蔵量が枯渇する可能性

  • 価格への影響: 長期的な供給制約が価格を支援

価格予測

期間

価格レンジ

備考

2040年

$50-138

BeatMarket予測

2050年

$50-100

最低$50、楽観シナリオで$100

変動要因

  1. 代替技術の進展: 銀を使用しない技術の開発が価格を大きく左右

  2. サーキュラーエコノミー: リサイクル技術の進化と循環型経済への移行

  3. 産業・投貨幣需要: インフレと産業需要(特にグリーンエネルギーと技術セクター)

不確実性

  • 広範な予測レンジ: 2050年までの予測は大きなばらつきがあり、市場の不確実性を反映

  • 代替素材リスク: 産業界が銀の実行可能な代替品を見つけた場合、価格は急落する可能性

  • Mark O’Byrne氏の見解: 今後3-5年で$100-150に達する可能性(世界的リスクの高さと産業・貨幣需要の組み合わせ)

投資家への示唆

構造的強気要因

  1. 長期トレンド: グリーンエコノミーとデジタル化は構造的な需要増加を支える

  2. 供給制約: 埋蔵量の懸念と鉱山生産の減少傾向は長期的な価格支援材料

  3. 二重の性質: 工業用金属と投資資産の両面を持つユニークな位置づけ

投資戦略上の考慮点

要因

内容

対応策

ボラティリティ

短期的な価格変動が大きい

長期投資視点の維持

分散効果

ポートフォリオの一部として有効

全体の5-10%程度を推奨

インフレヘッジ

歴史的に実物資産としての価値を保持

インフレ環境下での保有検討

タイミング

価格が既に高水準

ドルコスト平均法の活用

リスク管理

  • 過度な集中回避: 銀のみに集中投資しない

  • 流動性の確保: 必要時に換金できる形態での保有

  • 情報の継続的な更新: 市場動向の定期的なモニタリング

産業界への示唆

調達戦略の見直し

短期的対応:

  • 価格上昇リスクへの対応(ヘッジ戦略の検討)

  • 供給不安への備え(在庫管理の最適化)

長期的対応:

  • 長期契約による安定調達の確保

  • サプライチェーンの多様化(特定国依存リスクの低減)

技術革新の推進

領域

目的

期待効果

代替技術開発

銀使用量削減

コスト削減、供給リスク軽減

プロセス効率化

歩留まり向上

単位製品あたりの銀使用量削減

製品設計

薄膜化・小型化

必要銀量の最小化

リサイクル強化

  • サーキュラーエコノミーへの移行: 使用済み製品からの銀回収システムの構築

  • 回収率の向上: リサイクル技術の向上による回収率の改善

  • 逆サプライチェーン: 製品回収ルートの確立

戦略的パートナーシップ

  • 鉱山会社との直接契約: 安定供給の確保

  • リサイクル業者との連携: 二次資源の活用

  • 技術開発パートナーシップ: 代替技術の共同開発

政策立案者への示唆

戦略物資としての認識

重要性:

  • エネルギー転換に不可欠な素材

  • デジタル社会のインフラに必要不可欠

  • 国家安全保障上の重要性

政策方向性:

  • 戦略物資リストへの追加

  • 国家備蓄の検討

  • サプライチェーンの監視

国内リサイクル体制の整備

施策

目的

期待効果

回収インフラ整備

使用済み製品の効率的回収

資源の循環利用

技術開発支援

リサイクル技術の向上

回収率・純度の向上

インセンティブ制度

リサイクル促進

回収量の増加

規制の整備

不適切な廃棄防止

資源の流出防止

探鉱・開発支援

支援策:

  • 探鉱活動への税制優遇

  • リスクマネー供給(政府系ファンド等)

  • 環境規制と開発のバランス

  • 鉱山開発の許認可プロセスの効率化

技術革新の促進

重点領域:

  • 銀使用量削減技術への研究開発投資

  • 代替材料の開発支援

  • リサイクル技術の高度化

  • 産学連携の促進

国際協調

協調の枠組み:

  • 安定的な市場形成のための国際協力

  • 投機的な価格変動の抑制

  • 供給途絶リスクへの共同対応

  • 情報共有メカニズムの構築

総括

銀市場は、供給制約と需要拡大という構造的要因により、長期的な上昇トレンドにあると考えられる。2025年の市場は既に多くの予測を上回る価格上昇を示しており、今後も以下の要因が価格を支えると予想される。

主要な結論

  1. 供給不足の長期化: 2021年以降継続する供給不足は、鉱山生産の限界と需要増加により今後も継続する見込み

  2. グリーン経済の推進力: 太陽光発電を中心とする再生可能エネルギー需要は、2030年までに現在の2倍近くに達する可能性があり、銀需要の主要な成長ドライバーとなる

  3. 価格上昇の蓋然性: 保守的なシナリオでも2030年までに$57-60、中心シナリオでは$75-90、強気シナリオでは$100超の価格水準が予測される

  4. 資源枯渇リスク: 長期的には埋蔵量枯渇の懸念があり、2040-2050年にかけて供給制約がさらに強まる可能性がある

  5. 代替技術の影響: 銀使用量削減技術や代替材料の開発が進展した場合、需要見通しは大きく変わる可能性があり、継続的な監視が必要

ステークホルダー別の行動指針

投資家: 長期的な資産形成の一環として、ポートフォリオの5-10%程度の保有を検討。短期的なボラティリティに惑わされず、構造的な成長トレンドに着目する。

産業界: 価格上昇リスクを前提とした調達戦略の見直し、代替技術の開発、リサイクル体制の強化を並行して進める必要がある。

政策立案者: 戦略物資としての認識のもと、探鉱支援、リサイクル体制整備、技術革新促進、国際協調を柱とする包括的な政策フレームワークの構築が求められる。

銀市場の今後は、エネルギー転換とデジタル化という時代の要請、供給制約という現実、そして技術革新という不確定要素の相互作用によって決定される。不確実性は高いものの、構造的な強気要因が優勢であり、中長期的には価格上昇圧力が継続すると考えられる。

参考文献・データソース