需給逼迫の構造的要因
銀市場は2021年以降、構造的な供給不足に陥っており、2025年現在も解消の見込みがない状況が続いています。本セクションでは、この需給ギャップの実態と背景にある構造的要因を分析します。
2024年の需給バランス
2024年の銀市場は、4年連続で需給赤字を記録しました。
需給バランス詳細
項目 |
数量(Moz) |
備考 |
|---|---|---|
供給サイド |
||
鉱山生産 |
819.7 |
0.9%増 |
リサイクル |
193.9 |
6%増 |
総供給 |
1,013.6 |
|
需要サイド |
||
工業需要 |
680.5 |
4年連続記録更新 |
宝飾品 |
208.7 |
3%増 |
銀製品 |
54.2 |
2%減 |
投資需要(コイン・バー) |
190.9 |
22%減 |
その他 |
約28 |
|
総需要 |
1,162.5 |
|
需給ギャップ |
-148.9 |
4年連続赤字 |
市場予測の推移
2024年4月時点の予測では、需給赤字は前年比17%増の215.3Mozに拡大すると見込まれていました。しかし、11月の修正予測では、供給側の改善により赤字は182Mozに縮小すると見直されました。それでも、依然として大幅な供給不足が継続しています。 [1] [2] [3]
2021-2024年の累積赤字
累積赤字規模
累積赤字: 678Moz [4]
相当期間: 2024年の世界鉱山生産の約10ヶ月分
市場への影響: 構造的な供給不足が定着し、価格の下支え要因に
この膨大な累積赤字は、一時的な需給の不均衡ではなく、構造的な供給不足が定着していることを示しています。
供給側の制約要因
銀の供給は複数の構造的制約に直面しており、需要増加に対応できない状況にあります。
主要な制約要因
副産物としての生産構造
銀生産の70-75%は鉛、亜鉛、銅、金の採掘における副産物
主産物の需要に依存するため、銀の需要増加に独立して対応できない
一次銀鉱山は全体の25-30%のみ
新規鉱山発見の困難
過去10年間、銀鉱山への投資が不足
重要な新規発見が限定的
探鉱・開発コストの上昇
既存鉱山の品位低下
既存鉱山の鉱石品位が経年劣化
採掘効率の低下
生産量の維持が困難に
生産コスト上昇
エネルギーコストの増加
人件費の上昇
価格上昇分の多くをコスト増が相殺
環境規制の強化
環境保護規制の厳格化
許認可プロセスの長期化
コンプライアンスコストの増加
主要鉱山の減産
チリなど主要産出国での生産減少
地政学的リスクによる生産中断
インフラの老朽化
物流インフラの制約
倉庫設備の不足
数十年前に設計された旧式の保管・物流インフラ
近代的な荷役設備の不足
急速な在庫移動に対応できない効率性の低下
需要側の成長要因
銀の需要は、技術革新と脱炭素化の潮流により、構造的な成長トレンドにあります。
工業需要の拡大
脱炭素化政策の推進
太陽光発電(PV): 2024年に20%増の見込み [5]
電気自動車(EV): バッテリーと電装系での使用増加
再生可能エネルギーインフラの拡大
デジタル化の加速
5G通信インフラの展開
AI・データセンターの増設
IoTデバイスの普及
グリッドインフラ整備
送電網の近代化
スマートグリッドの構築
エネルギー貯蔵システムの導入
新興国の経済成長
工業化の進展
インフラ投資の拡大
電化率の向上
工業需要の特性
銀の固有特性: 高導電性、高反射率、抗菌特性などの代替困難な物理的特性
技術進化: 継続的な技術革新により新規用途が創出
長期トレンド: 一時的なブームではなく、構造的・長期的な需要増加
2024年の工業需要は700Mozを初めて突破し、過去最高を更新しました。
2025年の見通し
需給予測
Silver Institute『World Silver Survey 2025』による最新予測:
総需要: 1.20Boz(ほぼ横ばい、-1%)
鉱山生産: 844Moz(+2%増、7年ぶり高水準) [6]
リサイクル: 200Moz超(+5%増、2012年以来初) [7]
総供給: 1.05Boz(+3%増、11年ぶり高水準)
需給ギャップの縮小要因:
供給側:鉱山生産+2%、リサイクル+5%の改善
需要側:工業需要は+3%成長も、投資需要が調整
市場見通しの特徴
最新動向(2025年)
市場の逼迫状況
2025年10月時点で、銀市場は深刻な供給逼迫に直面しています。
現物供給の制約: 物理的な銀の入手可能性が著しく制限
価格急騰: 2025年10月に$48/ozを超える水準に達し、数年ぶりの高値を記録 [14]
在庫の枯渇: 倉庫在庫が歴史的低水準に
年間需給ギャップの拡大
最新の市場分析によると、銀の需要は供給を年間約200-250Moz上回っており、これは年間総生産量の約20-25%に相当します。この大幅なギャップは短期間での解消が困難であり、中長期的な価格上昇圧力となっています。
Silver Instituteによる構造的赤字の定義
The Silver Institute(銀協会)は、現在の市場状況を「構造的赤字(structural deficit)」と定義しています。これは以下の要因による長期的な赤字を意味します:
技術進化: 新技術の発展による銀の新規用途の創出
工業需要の急成長: 特に脱炭素化とデジタル化による需要拡大
供給の硬直性: 鉱山生産とリサイクルが需要の伸びに追いつけない
長期トレンドの確立
2020年以降、世界の銀需要は供給を継続的に上回っており、この傾向は少なくとも2025年代半ばまで続くと予測されています。構造的要因に基づくこの需給ギャップは、今後の銀価格動向を理解する上で最も重要な要素となっています。
まとめ
銀市場の需給逼迫は、以下の構造的要因により今後も継続すると予想されます:
供給側: 副産物としての生産構造、投資不足、品位低下、環境規制などにより、供給拡大が困難
需要側: 脱炭素化とデジタル化という不可逆的なトレンドにより、工業需要が構造的に成長
累積赤字: 2021-2025年で約800Mozに達する見込みで、市場の逼迫が加速 [15]
価格影響: 継続的な供給不足が価格の強力な下支え要因となり、2025年には$48/ozを超える水準に上昇
この構造的な需給ギャップは、短期的な市場調整では解消できない深刻な問題であり、中長期的な銀価格の上昇トレンドを支える重要な要因となっています。