投資需要と各国の銀購買戦略
銀市場における投資需要は、実物投資(コイン・バー)とETF投資の両面から構成される。2024年は地域差が顕著で、西側市場での需要減少とインド市場の急成長が対照的だった。また、ロシアの戦略的銀購入宣言は、中央銀行による銀保有の歴史的転換点となる可能性がある。
投資需要の動向
コイン・バー需要(2024年)
2024年のコイン・バー需要は190.9百万オンスで、前年比22%減少し、5年ぶりの低水準となった。 [1] [2]
主要市場の動向
地域 |
変化率 |
主な要因 |
|---|---|---|
米国 |
-46% |
利益確定、市場飽和、トランプ選挙後の反応 |
ドイツ |
大幅減少 |
2023年VAT引き上げの影響継続 |
インド |
+21% |
価格上昇期待、輸入関税削減 |
米国市場の特徴:
多年ぶりの高価格により、投資家が利益確定を選択
市場飽和感が強まる
一部の投資家による売却が新規バー・コイン販売を圧迫
ドイツ市場:
2023年の付加価値税引き上げの影響が2024年も継続
西側市場全体で二桁の減少傾向
インド市場:
21%の急増と逆行トレンド [3]
価格上昇期待が投資需要を刺激
輸入関税削減が購入を後押し
ETF需要
2024年の回復:
7%の回復を記録(204.4百万オンス)
個人投資家の現物投資回帰
Silver Institute予測では、2024年の世界的な実物銀投資需要は16%回復し3.52億オンスに達すると見込まれる
ロシアの戦略的銀購入
歴史的意義
2024年、ロシアは銀を戦略的金融資産として宣言し、数十年ぶりに中央銀行による明示的な銀購入を開始した。これは現在の貴金属強気相場において、国家が明確に銀の準備金購入を宣言した唯一のケースである。
購入規模と計画
予算配分: 2025-2027年連邦予算案で515億ルーブル(約5.35億〜5.38億ドル)を貴金属購入に配分
対象金属: 金、プラチナ、パラジウムに加え、銀を初めて明示的に含む
推定: 大量の未公表購入の可能性
戦略的背景
ロシアの銀購入は以下の戦略の一環として位置づけられる:
西側制裁への対応
SWIFT銀行システムからの隔離に対する対抗措置
高流動性資産による準備金多様化
脱ドル化戦略
ドル依存からの脱却
代替準備資産の確保
資源優位性の活用
ロシアは世界第8位の銀生産国(年間38.5百万オンス)
自国産銀の戦略的活用
割安性の認識
他の貴金属と比較した銀の割安感
工業需要の強さが準備資産としての魅力を高める
市場への影響
専門家は、ロシアの銀購入決定により、今後24ヶ月で銀価格が少なくとも50%上昇する可能性があると指摘している。 [4]
中央銀行の動向
金購入との比較
2024年の金購入実績:
中央銀行は1,000トン以上の金を購入(過去10年平均の2倍) [5]
2022年以降、年間1,000トン超のペースを継続
主要購入国:
国 |
2024年購入量 |
特記事項 |
|---|---|---|
ポーランド |
90トン |
最大の金購入者 |
インド |
73トン |
前年比4倍に増加 |
トルコ |
75トン |
継続的な積み増し |
銀の位置づけ
従来の状況:
中央銀行は伝統的に銀を準備資産として保有せず
2024-2025年においても中央銀行は銀市場からほぼ完全に不在
金購入の活発さとは対照的
ロシアの転換点:
ロシアの動きが歴史的転換点となる可能性
一部専門家は他国も追随する可能性を指摘
工業需要の強さが準備資産としての魅力を高める
限定的なトレンド:
サウジアラビアの中央銀行が13F届出で、iShares Silver Trustに3億500万ドル以上を含む2つの銀ファンドに4,000万ドル超を投資
ただし、これは従来の金融準備というより資産運用戦略の一環と見られる
中央銀行の銀購入が限定的な理由
歴史的慣行: 金本位制時代以降、銀は準備資産から除外
市場規模: 銀市場は金市場と比較して流動性が相対的に低い
工業用途: 工業需要が強いことで、準備資産として保有する動機が弱い
制度的慣性: 既存の準備資産管理体制の変更には時間がかかる
機関投資家の動向
実物引き渡し需要の増加
2024年9月の記録:
COMEX銀先物の受け渡し契約が10,500件超
これは約5,300万オンス(22億ドル超)に相当
実物引き渡し需要の増加を示す顕著な指標
市場への示唆
機関投資家による実物引き渡し需要の増加は以下を示唆:
価格上昇期待: 現物保有の必要性を認識
供給懸念: 将来の供給不足への備え
ポートフォリオ多様化: 金融資産から実物資産へのシフト
最新動向(2025年)
ETF投資の急増
2025年上半期の実績:
地域別の投資パターン(2025年上半期)
欧州:
小売銀投資が2024年に回復を開始し、2025年上半期も勢いが継続
価格上昇に伴う投資家心理の改善
インド:
小売投資需要が引き続き堅調
2025年上半期は前年同期比7%増を記録 [10]
構造的な銀需要の強さを反映
米国:
小売需要は2024年上半期を通じて約30%減少
多年ぶりの高値により、投資家が利益確定を選択
小売投資家による売却が高水準で継続
新規バー・コイン販売を圧迫
価格パフォーマンス
2024-2025年の実績:
2024年通年: +21.46%
2025年上半期(1-6月): +24.94%
2年間で約50%の上昇 [11]
価格上昇の主要因:
構造的な供給不足
工業需要の増加
投資家の関心再燃(特にアジアと北米の小売購入者)
ETF、コイン、バーへの需要増加
中央銀行の金購入継続
2025年の動向:
中央銀行は2022年以降、年間1,000トン超の金購入を継続 [12]
2025年8月には金購入が回復の兆し
銀に対しては、ロシアを除き依然として購入活動はほぼ皆無
金融政策と貴金属市場
米国連邦準備制度の影響:
2025年9月の利下げにより、ハト派的政策への転換が確定
連続的な利下げと量的引き締めの終了が貴金属市場の環境を大きく変化
2025年10月28-29日のFOMC会合では、25ベーシスポイントの追加利下げがほぼ確実視される
貴金属への影響:
低金利環境が金・銀などの非利回り資産の魅力を向上
ドル安圧力が貴金属価格を支援
インフレ懸念がヘッジ需要を刺激
供給不足の深刻化
2022-2024年の累積不足:
Silver Instituteの報告によれば、世界供給30.3億オンスに対し、需要は6.63億オンス不足
5年連続の供給不足が継続
2024年の工業需要は記録的な6.805億オンスに到達 [13]
在庫状況:
COMEX在庫は15年ぶりの低水準に急落
実物供給の逼迫が価格上昇圧力を強化
新たな中央銀行戦略の可能性
一部のアナリストは、ロシアの動きが「中央銀行の銀購入という静かな革命」の始まりである可能性を指摘している。ただし、2025年時点では以下の理由から限定的なトレンドにとどまっている:
金購入の圧倒的優位: 中央銀行は依然として金の大量購入を継続
ロシアの特殊性: 制裁下という特殊な状況が背景
制度的障壁: 準備資産としての銀の位置づけが不明確
市場規模: 大規模な中央銀行購入には銀市場の流動性が課題
それでも、構造的供給不足と工業需要の強さを考慮すれば、今後数年間でさらに多くの中央銀行が銀購入を検討する可能性は排除できない。
投資需要の見通し
短期的要因(2025-2026年)
ETF需要の持続: 2025年上半期の流入ペースが継続すれば、通年で過去最高を更新する可能性
地域差の継続: インド・欧州の堅調vs米国の調整
ロシア購入の影響: 24ヶ月で50%上昇との専門家予測 [14]
供給不足の深刻化: 在庫枯渇が価格上昇を加速
中長期的要因
中央銀行のトレンド変化: ロシアに続く国の出現可能性
工業需要の増加: グリーンエネルギー転換が需要を下支え
金融政策: 低金利環境の継続が貴金属全般に追い風
地政学リスク: 脱ドル化・準備資産多様化の加速
リスク要因
価格調整: 急激な上昇後の利益確定売り(米国で既に顕在化)
景気後退: 工業需要の減少リスク
金融政策転換: 予想外の引き締めシナリオ
代替技術: 銀使用量削減技術の進展